【コラム】インダストリー4.0 最前線ドイツからの報告③

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第3回 IoTの共通言語をめざすEEBUS規格とは?

在独ジャーナリスト 熊谷 徹

読者の皆さんは、EEBUSイニシャチブという団体の名前を聞いたことがあるだろうか。現在ヨーロッパ、特にドイツのスマートホームやスマートグリッド関係者の間では、EEBUSという規格が大きく注目されている。

国境・業種を超えたデータ交換を可能にする

この規格の推進団体EEBUSイニシャチブは、2018年2月に、エッセンの見本市「Eワールド・エネルギー・ウォーター」でプロジェクトの全容を公表した。

EEBUSとは、スマートホームとスマートグリッドの間の相互コミュニケーションを可能にする、架け橋である。ドイツの技術者たちは、EEBUSを様々なデバイスが交信できるようにするための、国際共通言語つまり国際標準にすることを狙っている。

現在ドイツの製造業界は、スマートホーム実現のために、製品・技術開発を必死で行っている。スマートホームが実現すれば、市民は屋外からスマートフォンを使って、遠隔操作で冷暖房を調整したり、窓のブラインドを閉めたりできる。さらに遠隔操作のビデオで、留守宅の監視をすることもできる。泥棒が窓をこじ開けようとしたら、すぐにスマートフォンに信号が送り込まれる。またアマゾン・エコーなどのIoTデバイスを使えば、音声によってスマートホームに様々な指示を与えることが可能だ。

自然エネルギー拡大とプロシューマーの誕生

一方ドイツの電力業界も、次世代電力計スマートメーターを使ったインテリジェントな送電網・配電網つまりスマートグリッドの開発を急いでいる。その背景には、ドイツが再生可能エネルギーを急激に拡大しているという事実がある。

ドイツは2022年末までに全原発を停止させるほか、地球温暖化防止のために、褐炭・石炭火力発電所についてもエネルギー・ミックスの中の比率を下げていく。同国は2050年までに、再生可能エネルギーの発電比率を80%に高めることを目指している。

だが太陽光や風力は、原子力や火力に比べて変動の幅が大きい。ドイツでは真冬に最も電力需要が多くなるが、需要のピーク時に風が弱くなったり、太陽が照らなかったりした場合、需給のバランスが崩れて電力不足が生じる危険がある。

このため経済エネルギー省や電力業界は、再生可能エネルギーの拡大には、スマート・メーター(次世代電力計)を使った、電力の需要管理システムの構築が不可欠だと考えている。

ドイツ人が想定している未来のシナリオは、次のようなものだ。電力の需要がそれほど高くない日曜日の未明に、バルト海で強い風が吹き、洋上風力発電基地の発電プロペラがフル稼働し、大量の電力を系統に送り込む。需要が低い時に供給が急増するために、電力市場の価格は下落する。

ドイツの家庭や事業所に取り付けられたスマート・メーターは、電力価格が下がっていることを自動的に感知して電力を買い取り、蓄電装置にためたり、消費したりする。EVとつながっている家庭では、車のバッテリーにも充電される。つまりIoTの技術によって、消費者は電力消費のピークを、値段が安い時間帯にずらすわけだ。

次の週の水曜日の午後3時には、電力需要が急増したが、この日は風が弱いために発電プロペラはほとんど動かない。さらに分厚い雲がドイツ全土を覆い、太陽光パネルから系統に送り込まれる電力量も普段よりも少ない。家庭や事業所のスマートメーターは、電力市場で価格が上昇して、一定のレベルを超えたことを感知すると、蓄電装置の中に余っていた電力を自動的に販売する。これによって需要家は、売電利益を得ることができるので、電力コストを節約することができる。

つまり電力消費者(consumer)が、電力供給者(producer)にもなる。再生可能エネルギーが電力需要の大半をまかなう時代には、「電力を消費し、供給する人」つまりprosumerが不可欠である。需要家は、スマート・メーターによって市場の電力価格と需給の変化をリアルタイムで把握し、電力をきめ細かく購入・販売する。ドイツ政府は、需要家の弾力的な反応によって、風力や太陽光による電力の変動を緩和することを目指しているのだ。発電状況に応じて需要を変化させないと、朝の出勤前に各家庭が一斉にEVの充電を始めて電力消費が急増した場合、系統に過重な負担がかかって広域停電などの不測の事態につながる危険もある。

世界中の70社が加盟

このシステムの前提は、発電装置、系統、スマートメーター、スマートホームの蓄電装置、EV、家電製品などが、リアルタイムで情報を交換できることだ。EEBUSは、業種や機器、国境の違いを超えて、システムが相互に交信できるようにするための、国際標準規格つまり「万国共通言語」である。この際に、ドイツが同時に進めている製造業のデジタル化計画インダストリー4.0、つまりIoTの技術が駆使される。

EEBUSにはエーオン、イノジー、ENBWなどの電力会社、IBM、インテルなどのIT企業、ボッシュ、ABBなどの製造企業、ドイッチェ・テレコムなどの通信企業など約70社が参加している。メーカーの中では、スマートホームやIoT、再生可能エネルギー関連の企業の数が多い。またEVを蓄電装置として使用することから、充電ステーションのメーカーや、ドイツ自動車工業会(VDA)も加わっている。日本からは村田製作所、中国からは国家電網公司が参加している。

国際標準化を目指すEEBUS

現在EEBUSイニシャチブには、「太陽光発電と蓄電装置」、「冷暖房」、「白物家電」、「EVとコネクテッドカー」の4つの作業部会があり、参加企業が共同で研究と実験を行っている。近く「スマートメーターとエネルギー市場」という作業部会も設置される予定だ。

EEUBUSイニシャチブは、すでにいくつかの外国のスマートホーム推進団体と提携している。たとえばイタリアのEnergy@homeや、米国のOCF(Open Connectivity Foundation) やThread Groupはその例だ。

ドイツの企業や業界団体の狙いは、EEBUSをスマートホームとスマートグリッドのための国際規格にすることだ。私は、今後EEBUSイニシャチブに加わる企業や団体が増えれば、この規格が一種の国際標準となることもあり得ると考えている。

これらの分野への参入を考えている日本企業にとっては、EEBUSに関する情報を綿密に収集する必要があるかもしれない。

(続く)

著者略歴

熊谷 徹(くまがい・とおる)

1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に取材、執筆を続けている。

著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「あっぱれ技術大国ドイツ」、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「顔のない男・東ドイツ最強スパイの栄光と挫折」(新潮社)、「なぜメルケルは『転向』したのか・ドイツ原子力40年戦争の真実」、「ドイツ中興の祖・ゲアハルト・シュレーダー」(日経BP)、「偽りの帝国・VW排ガス不正事件の闇」(文藝春秋)、「日本の製造業はIoT先進国ドイツに学べ」(洋泉社)「5時に帰るドイツ人、5時から頑張る日本人」(SB新書)など多数。「ドイツは過去とどう向き合ってきたか」(高文研)で2007年度平和・協同ジャーナリズム奨励賞受賞。

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フェースブック、ツイッター、ミクシーでも実名で記事を公開中。

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